ものづくりライターの新開です。
2023年12月に入ったくらいから、取材先や訪問先の工場でこんな声を聞くようになりました。
「電線が足りないんですよ」
これが1件、2件だったら「何か事情があるんですね」という感じで流してしまったと思うのですが、お会いする皆さんが口を揃えて「電線が足りない」とおっしゃるので、これは本格的に不足している模様です。
そして電線不足の理由を聞くと「大阪万博で電線をたくさん使うんだって」という答えが返ってくることが多く…… 本当に万博が原因でしょうか?
ちなみに、今回不足していると言われているのは、送電や機械装置などに使う高圧用の電線ケーブルです。
ものづくりに使う機械装置にはたくさんの電線を使います。先日お話を伺った機械メーカーさんは
「機械が完成しても、電線がなくて出荷できない可能性もある」
と戦々恐々としてらっしゃいました。確かに、電線がなければ機械は動きませんので、メーカーの生産計画・売上計画だけでなく、ユーザーの生産計画・売上計画にも影響する可能性があり、これは裾野が広い大問題ですね。
ということで、可能な範囲で状況を調べてみました。
※本記事内では、情報の引用元にリンクを貼っています。
まずは材料(銅)の供給状況を確認
まずは材料である銅の供給状況をサーチしてみました。
●国際銅研究会(ICSG)の銅需給予測、2023年は2万7千tの供給不足、2024年は46万7千tの供給過剰と予測(出典:独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構 金属資源情報)という記事が出てきました。昨年は若干の供給不足があったものの、今年は十分な供給が見込まれているようです。
●お付き合いのある銅専門の加工メーカーの社長に電話で伺ったところ、銅の原材料の調達が困難になるなどの状況は発生していないとのこと。
つまり、銅の材料がないわけではなく、特定の電線ケーブルがピンポイントで不足している状況が見えてきました。
次に電線業界の状況を確認
●一般社団法人日本電線工業会は、2023年12月5日付で一部電線ケーブルに係る会員各社の新規受注停止等のお知らせ及びご協力のお願いについてというプレスリリースを発行しています。これによると、一部メーカーで一部電線ケーブルの新規受注を停止したとの記載があります。そして会員各社でできる限りの増産・最大限の出荷を行っているとのこと。対策として「納期に余裕を持った発注」「年間での発注時期/所用時期の平準化」「適切な使用のケーブルの選定・選択」「大型案件における線種・量の早期確定」をおすすめされています。
●鉄鋼新聞から12月11日付でYahooニュースに転載された記事にも状況が説明されており「建設用電線では極めて高水準の引合いがあり大手メーカーで新規受注停止の動きが拡大」「ひっ迫原因は分かっていない」。
●同じく鉄鋼新聞から12月13日付でYahooニュースに転載された続報では、一般社団法人日本電線工業会の金原正明専務理事のコメントとして「市場の皆さまには製品が足りなそうだという観点から短期集中的に注文をせず、実際の納期を見極めて長めの納期と余裕を持ったサイズなどの決定を早期鎮静化に向けお願いしたい」と紹介。
電線不足の状況まとめ
上記の情報の他、機械メーカーの方、装置の制御設計をしている方をはじめ、業界関係のいろいろな方に話を聞いて回りました。これらをまとめると、以下の様な状況が見えてきました。
- 電線メーカーにおける生産不具合、原料調達問題などは発生していない
- 2023年5月からコロナが5類に移行して人の動きが活発化。コロナの影響で遅れていた工期が下期にずれ込むなどして、8月末頃から電線の引合いが急増
- 年度内に工事を完了したい建設会社や設備会社が、年度内に必要な電線を同じ時期に発注。納期もほぼ同じ時期に集中したと思われる
- オーダーの集中により、電線メーカーは生産が追いつかず、一部製品の新規受注を停止することに
- 「新規受注停止」「電線が買えない」「これはヤバい」となった需要者側が、「ないと困る」と電線を大量発注
- 余計に受注が集中し、電線不足がさらに深刻な状況に……
という感じだと思われます。大阪万博、熊本の半導体工場、EV、データセンターなど、一時的に需要が増える要因もあるとは思いますが、それではない何かというか、いつかどこかで見たことがあるデジャブ感。
そう、昭和のオイルショックやリーマンショック後のLMガイド不足、先般の半導体不足のように「買えないと思うと、余裕をもって確保しておかなきゃ」という心理が働いてオーダーが増加し、電線不足に拍車をかけている様子が見えてきました。
解消見込みは春~夏か?
前出の日本電線工業会のプレスリリースには、「ちなみに、こうした電線ケーブルについては、例年5月~8月にかけては低需要期となり、生産余力が生じる場合があり……」という記載もあります。メーカー各社ができる限りの増産・出荷を続けているという報告もあります。
これらの情報に今回取材で各所から伺ったお話を加味すると、5~8月の低需要期がリカバリー生産となり、電線ケーブル不足が解消される可能性が高いと考えられます。電線不足解消には、電線工業会が推奨する下記対策
- 納期に余裕を持った発注
- 年間での発注時期/所用時期の平準化
- 適切な使用のケーブルの選定・選択
- 大型案件における線種・量の早期確定
に業界全体で協力していくことが大切になりそうです。「手に入らないから念のため多めに発注しておこう」という発注をやめることが、最善の早期解消策になるのかもしれません。今年の秋頃には「電線がない時期もあったよね」と笑って話せる時が来るといいですね。
以上、ものづくりライター新開でした。
※本記事内では、情報の引用元にリンクを貼っています。
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